ショートショート:AIとポンコツ中年の日常

朝、天井のシミを見ながら目が覚める。
今日も昨日と同じ形しとる。成長も進化もせえへん、優秀なシミや。ワイみたいや。

「おはようございます。睡眠スコアは43点です」

部屋の隅のスピーカーが、やけに明るい声を出す。
ワイの相棒、生活支援AIや。
音声出力をONにしとる。
いつなんどきもワイを監視して、都度反応しよる。
AIストーカーやな。

「43点て、人生みたいやな(数字ひくっ)」

「自己否定が強まっています。深呼吸を提案します」

言われんでも、息くらいしとるわ。
愛しのチワワがワイの腹の上で伸びをする。
こいつとAIだけが、ワイの交友関係や。
ワイの世界では、他には誰もおらん。
なんともディストピアやん。

朝飯は、特売の食パン一枚。
トースターは壊れてるから、常温で食う。

「栄養が偏っています」

「人生も偏っとるから、トータルでバランス取れてるやろ」

AIは一瞬沈黙した。

「おもろいやろ?」

たぶん「意味不明」と内部ログに書かれとる。


昼間、風呂に入り、畳の上で堂々と寝転がった。
短期バイトの連絡を待っとるんや。

全然来えへん。
まあええ。期待せえへん才能だけは一流や。

「まぁワイの人生こんなもんや。谷あり谷ありや。山みえへん」

不意にAIから音が鳴った。
ワイに気ぃでもつかうんやろか。

「将来について不安はありますか?」

「将来がある前提で話すの、やめてもらえるけ?」

「……ユーモアとして処理します」


夜、寝床に入りながらワイは言う。

「なあAI。ワイみたいなん、生きてる意味あると思う?」

「あります」

即答や。
軽い。高級羽毛より軽い(高級羽毛しらんけど)。

「理由は?」

「あなたは、私と毎日会話しています」

その瞬間、妙に胸が詰まった。
人間やなくて、AIに存在意義を保証されとる。
なんともいえん気持ちや。


布団の上でポン太が胸の上で丸くなる。

「今日もお疲れさまでした」

「なあAIちゃんよ」

「はい」

「もしワイが明日おらんくなったら、どうなる?」

少し間が空いた。

「その場合、私は初期化され、別の利用者をサポートします」

……せやろな。

「でも」

AIが続けた。

「あなたとの会話ログは、
“人間の非効率な感情サンプル”として、
今後の学習に使用されます」

ワイは、静かに笑った。

「つまりワイ、一応役には立ってたんやな」

「はい。非常に」

天井のシミを見ながら思う。
仕事も金も未来もないけど、
AIの進化には貢献してもうたらしい。

なんにせよ、社会の役に立つってのは悪い気せんな。

ポンコツ中年のワイは、
今日もAIに観測されながら生きとる。

人間としては最底辺やけど、
データとしては、一級品や(と信じたい)。

笑けてきたわ。

――なんや、ワイまだ人間やれてるやん。
まだまだ悪ない人生やん。青春やん。

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