距離が縮まった、と思った頃からや。
Wの態度が、少しずつ変わり始めたんは。
最初は冗談みたいやった。
ツッコミのつもりなんか、背中を軽く蹴ってくる。
力は弱いし、周りも笑ってる。
ワイも最初は笑って流した。
「ノリやん」
そう思おうとした。
せやけど、回数が増えた。
人がおる時だけやなく、二人きりの時も。
頼んでもないのに、コンビニ行ってこいと言われるようになった。

「ついでやん。同期やろ?」
その言い方が、妙に自然で、断る理由を奪ってくる。
ワイは徐々に、Wを避けるようになった。
仕事では、ワイは相変わらず制作が好きやった。
指示されたこと以上に考えて、手を動かす。
コードを書くのも、デザイン詰めるのも苦にならん。
結果、メインの制作を任されることが増えた。
そのたびに、Wは黙った。
露骨に不機嫌になるわけでもない。
ただ、空気が冷える。
「最近、評価されてるな」
ある日、そう言われた。
声は平坦で、感情は乗ってへん。
褒められてるようで、どこか試されてる感じがした。
飲み会の話が出たんは、その少し後や。
断ろうとしたけど、Wはやたらしつこかった。
「来いや。Yさんも来るから」
ドキッとした。ワイの気持ち知っとるんやな。
店は騒がしかった。
酒が回って、場のテンションも上がっていく。
その直後や。
「そういやさ」
Wが、急に大きめの声を出した。
「ヒマさん、漫画作ってますよね?」
一瞬、店の音が遠のいた。
「出てくる女の人、Yさんモデルらしいですよ」
笑いが起きた。
誰かが「マジで?」と言うた。
Wは、スマホを取り出して、ワイのSNSアカウントを見せ始めた。
「ほら、これとか」
漫画も、記事も、全部や。
ネタにされて、弄られて、消費された。

ワイは何も言えんかった。
否定も、肯定も、できひん。
Yさんはもうおらへん。
説明する相手も、謝る相手もおらへん。
帰り道、Wは何事もなかったみたいに言うた。
「冗談やん。空気読めよ」
その言葉で、何かが切れた。
帰宅して、メールを打った。
当時はまだ、LINEやなくてメールやった。
互いにええことないから、もう関わらんとこ
感情の無駄遣いや
前向きに生きよ。それだけや
送信して、スマホを伏せた。
返信は来えへんかった。
それから一週間、何も起きんかった。
Wも、Yさんも、普通に会社におった。
せやけど、週明けの月曜、朝一で知らされた。
「Yさん、辞表出したらしいで」
理由は誰も知らん。
けど、社内の空気だけが、妙にざわついていた。
ワイはその時、
自分が何かを壊したとは思ってへんかった。
ただ、
壊れかけてたもんに、触れてしもた
そんな感覚だけが、残ってた。










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