Yさんが辞めてから、会社の空気は変わった。
露骨やないけど、どこか重い。
誰も理由を言わへん。
けど、皆「何かあった」ことだけは共有してる。
ワイは関係ない。
そう思うようにしてた。
Yさんとは、もう話してへん。
Wとも、距離を置いたままや。

数日後、噂が回ってきた。
「盗撮動画、出回ってるらしいで」
最初は意味がわからんかった。
誰の、何の話かも曖昧で、悪質なデマやと思った。
「警察も動いてるって」
その一言で、背中が冷えた。
昼過ぎ、人事の人間がワイの席まで来た。
名前も顔も、ほとんど知らん人や。
肩を軽く叩かれて、静かな声で言われた。
「ちょっと、会議室来てくれる?」
その言い方で、もう察した。
逃げ場のない話や。

会議室には、人事と上司が揃ってた。
机の上に、見覚えのある箱が置いてある。
「このカメラ、知ってるよな?」
心臓が、一拍遅れて鳴った。
ワイがWにプレゼントした、小さいカメラや。
長時間録画できるやつ。
「盗撮に使われてたものや」

淡々と言われた。
責める口調でも、疑う口調でもない。
それが逆に怖かった。
たれこみがあったらしい。
「君のSNSも確認した」
漫画の話が出た。
Yさんをモデルにした官能的な内容。
過去の投稿、スクショ、全部並べられた。
「総合的に判断した」
その言葉で、話は終わってた。
ワイは言うた。
「ワイは盗撮してません。
それは同僚にプレゼントしたカメラです」
それ以上は、聞いてもらえへんかった。
数日後、解雇を言い渡された。
理由は、明確には言われへん。
コンプライアンス。
社内秩序。
リスク管理。
便利な言葉ばっかりや。
確かに、ワイはやりすぎた。
漫画でYさんを意識してた。
容姿も、雰囲気も、寄せすぎた。
嫌な気分にさせたやろう。
それは否定せえへん。
けど、
それで盗撮犯扱いされて、仕事まで奪われるんか?
納得はいかんかった。
せやけど、抗議する気力もなかった。
会社を出る時、
誰も声をかけてこなかった。
視線だけが、刺さった。

正義は、いつも静かや。
説明もせえへん。
弁解の余地も与えへん。
その頃のワイは、
自分は被害者や
そう信じて疑わんかった。
まだこの時点では、
自分が「断罪される側に立つ資格」を
ちゃんと持ってたことに、気づいてへんかった。









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